殺意





屈辱でも怒りでもなくましてや快楽のためでもない純粋な殺意はとかく得難いものではあるのだけれども。


体を合わせている時に殺意を向けてくる。
己の上に乗ってゆらゆら揺れている時など快楽故か苦痛故か何処か自失したような貌を浮かべて焦点の合わぬ目でこちらに視線を向けたかと思うと じ っと半分閉じた目でゆらりと殺意を向けてくる。
余計な感情も気負いも一切帯びず、ただ己を殺したいのだという意志だけが互いの体温で多少温くなった空気を伝って皮膚を焼く
殺意の先の皮膚がぴりりとして微妙な熱を発するような錯覚、錯覚であるはずなのだが現実と感じられるのは己の酔狂かそれとも真実か、

それが殊更気持ちいいと思う。



何処からか沸いて出た笑みを押さえ込んで下からゆらりと揺すると、己に跨っている獣は一瞬顔を歪め、息を飲み込んで波に耐える様。
目尻が朱に染まったのが興を誘って続けてゆらゆらと揺すれば は、と短い息を継いで
無意識なのか動きに合わせて体を揺らす。
その様が何故か無性に愛おしく感じられ、ぐいとそのまま横に引き倒して体をぴたりと合わせればもはや衣擦れなど聞こえないから部屋に響くのは呼吸音と水音と 心音。



情などという不確かなものよりもこの殺意の方がどれほど。

肌を焼くこの殺意がある限りこの獣は己を追って地獄まで付いて来るのだろうと思ったら笑みが浮かんで仕様がなかった。
そのもとは安堵か自嘲か いや両方かもしれなかった。
情など。



お前のその殺意が一番心地いい と耳元で囁いたら
刹那視線が交差した後にやりと獣が笑う

ああその顔も心地いいのだと思ってまた体を深く沈めれば鳴き声と共に夜が閉じた。







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ぴりぴりした白恋がすきです。そりゃもうだいすきです。
殺意という名の執着心は≒情 などと戯言もほざきたくなるくらいには白恋がだいすきなのです。