増える傷跡
お前だったらどうした? と問われてじっと見つめれば数秒沈黙が落ちる。
ほんの瞬くほどの時間かと思ったが実際のところ俺は結構な時間檜佐木の顔を見ながら固まっていたみたいで
その数秒だか数刻だかなんとも曖昧な時間必死に檜佐木の口から発せられた質問に答えるべくうんうん考えていたか
と言えばそうでもなく、ただ俺はじっとこちらを見つめてくる檜佐木の三本綺麗に並んだ傷跡とかその中心に座して
くるりとも動かない暗黒色の瞳だとか意外にもすらりと長い(ただ量は少ない)睫とかを注視しながら
ああどうするかな、それは言っちゃいけねえ質問じゃねえのか
などとぼんやり考えていたのだった。
俺が思ったことを察したのか、はたまた自分で言葉を発した後しまったとでも思ったのか檜佐木はその曖昧な固まった
時間を解きほぐすかのようにくしゃりと顔を歪めて 悪ィなんでもねえ と口の端に乗せたかと思ったらそのままふいと
向こうを向いてしまう。
笑ってるんだか怒ってるんだか泣いてるんだかわかんねえ と思った。
いや多分それは全部正解で、一言で表すのならきっと 「苦しい」
彼と彼と彼女と自分を隔てていたものにさほど大きな違いがあるとも思えなかったのに訪れたのはこの結果で。
三様に想っていたのは疑いようがなく、虚偽かも知れぬ、虚偽かも知れぬが確かにもういなくなってしまった愛しい人から彼等は想われていたはずなのだ。
いや、想っていたと言うのならば確かに自分もあの真白な桜のことをこれ以上ないくらい想っていた。
しかしそれは彼等の様に純粋無垢な憧憬とか親愛とかの情ではなく、もっと歪んで、煤けたものだ。
でも、この結果は。
置いて行かれる前に喰らいついてぶった斬るか、置いて行かれても追い縋って斬りますよ と言ったら檜佐木が顔をふいとこちらに戻した。
元々人相が良い方でもない上顔が固まって表情なんて微塵も無いから人形の様に見える。
先程じっと覗き込んでいた暗黒色の瞳は相変わらず三本線の真ん中で動きを止めたまま無駄に光だけを反射していて硝子か何か一瞬判断に迷うくらい
義眼じゃなかったよな ギリギリ失明は免れたとか言ってたからなあ とふと思ったところで人形が口を開く
ああお前はきっとそうするだろうな そう言った檜佐木の顔はこれまでに見たことがないようなくらいに穏やかで、
逆に俺の内臓が冷える。
そういう意味ではお前が一番純粋だ と言って檜佐木はまたくしゃりと顔を歪めた。
笑ってるんだか怒ってるんだか泣いてるんだかわからなかった。
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辛いんだけどどういう風にそれを表わしていいかわからないのが檜佐木先輩だ!という妄想(痛)
SOU様が天に昇ってしまった後、359の三人と恋次とでかなりはっきりと天国地獄が分かれたので、本人たちも微妙なんじゃないかなあと思います。
恋次→先輩の呼称が「檜佐木」なのは「先輩」だと妙にしまらないから、それだけです…。