隣人





浮竹隊長の体は少しずつ悪くなっているらしい。

元々、死に至る病ではない。だが肺病を患って以来、少しずつ少しずつ悪くなっているのだという。
肺の血管が脆くなる。破れる。血が出る。肺に溜まる。呼吸が出来ない。死ぬ。
簡単な理屈だ。
ただ、そうそう大きな血管が破れて肺が血で満ちるという事態には陥らず、浮竹隊長は命を永らえているのだという。
しかし、破れては治り、治っては破れを繰り返す内に、やはりどんどん脆くなっているというのだ。
咳き込む。呼吸が苦しい。ぜえぜえ。体が動かぬ。吐血。

浮竹隊長の体は少しずつ悪くなっているらしい。




「早々に尽きる命だと思っていたが割と続くものだなと自分でも感心しているよ。」
そう言って虚空を見つめる彼の手には白い紙一枚。殉職者通知。三名。
ちらと黒い髪が頭をよぎる。


「…何も君のせいじゃないだろう。永らえる命にはそれなりの理由がある。そうやっていじけてみるものではないよ。」
「いじけてなど」
いじけている。解っている。自分より若く健康で未来のある者が死に、その対極に位置するであろう自分が生きている、この空虚さ。
生きて死神になって隊長になって気づかされるのは己の小ささと無力さ、そればかり。
今だって床に伏せって友人の前でいじけているのだ。いい大人なのに。小さい。

「なぜ自分が、などと考えてはいけないよ。隊員を守るのは隊長の務めだが、それ以上に隊長は自分を守らねばならない。それが一隊の長というものだよ。…なんて理屈だけどね。」
「解っている。」
そう、解っている。頭では。頭、では。


こほん と一つ小さく咳をする。微かに血の味。喉の奥。友人がちらりと横目でこちらを見る。
自分が生き永らえる間、一つ、また一つと消えてゆく命はきっと己の吐き出す血の様にこの羽織に染み込んでいて、落ちることも、落とすことも出来ない。
その羽織を纏うこの身が、段々と削られていくことがただ、恨めしい。
もう一つ こほん と小さく咳をする。手で押さえる。
ちらと黒い髪が頭をよぎる。


「…命が永いのは良いことだが、永すぎる命は時々辛いと、そう感じてしまうよ。」
「それが死神の死さ。」
そう、だから命に目を逸らす。生に目を向ける。
ちらと黒い髪が頭をよぎる。







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微海浮、のような。 常に死と隣り合わせの死神業ですが浮竹のそれは二重の意味を含むのではないかと
永遠とも言える時間を考え出したら発狂しそうなので、生きていることの快楽を追及するようになりそうなのが死神ズだと妄想してます。